東京高等裁判所 平成6年(行ケ)132号 判決 1996年4月18日
東京都江東区亀戸6丁目4番5号
原告
株式会社太田製作所
同代表者代表取締役
太田弘
同訴訟代理人弁護士
吉田暉尚
同
大森八十香
同
野島潤一
同訴訟代理人弁理士
志賀富士弥
同
橋本剛
同
小林博通
東京都千代田区東神田1丁目8番11号
被告
スガツネ工業株式会社
同代表者代表取締役
菅佐原博
同訴訟代理人弁護士
小坂志磨夫
同
櫻井彰人
同訴訟代理人弁理士
斎藤義雄
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
「特許庁が平成5年審判第13508号事件について平成6年3月31日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
被告は、名称を「ヒンジ」とする考案について登録第1898255号実用新案(昭和57年12月8日実用新案登録出願、平成3年3月5日出願公告、平成4年4月7日設定登録。以下「本件考案」という)の実用新案権者であるが、原告は、平成5年6月28日本件考案について登録無効の審判を請求し、平成5年審判第13508号事件として審理された結果、平成6年3月31日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年5月16日原告に送達された。
2 本件考案の要旨
マウンティングプレートとソケットをリンク機構にて連結してなるヒンジにおいて、上記リンク機構は拡幅リンクと狭幅リンクとからなり、上記ソケットに軸ピンにて枢着可能なるよう上記拡幅リンクの左右両側端部に夫々巻成されたカール部による軸承部には、拡角度に開扉可能となるように、閉扉時にあって、前記狭幅リンクの一部を受容可能なる如く、当該拡幅リンクの幅方向中央部に切欠窓孔を設けて、上記両側カール部の先端側を連設してなる連設部が形成されているヒンジ。(別紙図面1参照)
3 審決の理由の要点
(1) 本件考案の要旨は前項記載のとおりである。
(2) 請求人(原告)の主張
本件考案は、その出願前に頒布された実公昭53-47172号公報(本訴における甲第4号証)、実公昭43-14250号公報(同甲第5号証)、実公昭35-10518号公報(同甲第6号証)及び実公昭47-34456号公報(同甲第7号証)に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
(3) 判断
<1>(a) 甲第4号証には、「互いに回動させるように対向させた2つの回動部材に連結部材の両端を枢支し、さらにこれら回動部材に別体なる連結部材の両端を、一方の回動部材においては前記連結部材の枢支点より外側に、他方の回動部材においては前記連結部材の枢支点より内側端側にそれぞれ枢支してなる蝶番において、一方の回動部材には、その側板の間に枢支ピンを跨設すると共に、該枢支ピンには、一方の連結部材を枢支し、さらに該連結部材には上記枢支点の近傍に切欠個所を形成することにより、他方の連結部材が該切欠個所に進入して上記枢支ピンに押当停止するまで両回動部材を回動自在とした蝶番における広角度回動機構。」が記載されているが(別紙図面2参照)、その第3図を見れば分るように、それは本件考案における図面の第3図にすでに示されているところの従来例のヒンジに相当するものであることは明らかであって、それには本件考案でいう「連設部」が存在しない。
(b) 甲第5号証には、「翼板Aの内側縁1の中央に突設し、その一部に欠口2”を設けた雌筒2と翼板Bの内側縁3の両側に突設した雌筒4、4とを喰合せ、両雌筒2および4、4の筒孔2’および4’、4’に軸5を挿通し軸装し、翼板Bの雌筒4、4間にその翼板Bの外側縁6から内向きに突設した弾板7の屈曲先端縁8を上記翼板Aの雌筒2の外面9または欠口2”に弾発的に係止させるようにして成る弾節蝶番。」が記載されており(別紙図面3参照)、その欠口2”を設けた雌筒2は欠口2”の縁から雌筒2の巻締め先端部にかけて連接部分を有することはその第2図や第7図(A)~(D)によって明らかであるが、その欠口2”及び上記連設部分は、2枚の翼板A、Bをそのそれぞれに設けた雌筒2、4に軸5を挿通して枢着するタイプの蝶番の一方の翼板Aに設けた雌筒2に設けたものであって、その欠口2”は、他方の翼板Bの外側縁6から内向きに突設した弾板7の屈曲先端縁8を係止するためのものであり、また連接部分を設けることの意義については同号証には特段の記載がない。
(c) 甲第6号証には、「1組の蝶番部片1、2は管3、4を具備し、その管3は切欠6を有し他方の管4、4間に小突起7を上記管3の切欠6に対応して突設しこれら両部片1、2を前記管3、4に軸5を挿通し全体を弧面としてある円弧面に取付ける蝶番の構造。」が記載されており(別紙図面4参照)、その第4図からみて、その管(耳)3の切欠6の下方(すなわち切欠6の縁から管(耳)3の巻締め先端部にかけて)には連接部分があることは明らかであるが、その切欠6及び上記連接部分は、2枚の蝶番部片1、2とそのそれぞれに設けた管3、4に軸5を挿通して枢着するタイプの蝶番の一方の蝶番部片1の耳(管)3に設けたものであり、その切欠6は、軸5の湾曲の逃げ場となるものであり、かつ蝶番の他方の部片2の小突起7を切欠6の基部に当てて蝶番の開き具合を規制する(同号証1頁右欄7行ないし13行を参照。)ためのものであって、また連接部分を設ける意義については同号証には特段の記載がない。
(d) 甲第7号証には、「翼板1の内側に孔1’、1’を設けその先を突部に形成して、翼板1に近い欠口壁をアール7aに形成する欠口7を設けた雌筒と翼板2の内側の両側に突設した雌筒とを喰合せ、両筒に軸を挿通し、前記欠口7の雌筒上に突出する弾板6を翼板2と一体的に設け、かつ前記弾板6の上面を薄肉部6a、6bに形成して先端録8を前記筒上に弾発的に係止させ翼板の内側から外側に向ってストッパー板4を設けてなる弾節蝶番。」が記載されており(別紙図面5参照)、その欠口7を設けた雌筒は欠口7の縁から雌筒の巻締め先端部にかけて連接部分を有することはその第4図や第5図によって明らかであるが、その欠口7及び上記連接部分は、2板の翼板1、2をそのそれぞれに設けた雌筒に軸3を挿通して枢着するタイプの蝶番の一方の翼板1に設けた雌筒に設けたものであって、その欠口7は、翼板2の弾板6の先端縁8と嵌合し、翼板を固定する(同号証1頁右欄7行ないし10行参照。)ためのものであり、また連接部分を設ける意義については同号証には特段の記載がない。
<2> してみると、甲第5号証ないし第7号証には、「切欠」や「連接部分」が示されているものの、その「連接部分」は、蝶番の一方の翼板に設けた雌筒に、蝶番を係止したり軸の湾曲を助けたりするための「切欠」を形成するにあたって、切欠く必要のない部分を単に残したことによって形成されたものと認められる。
そうすると、結局、甲第5号証ないし第7号証には、「拡幅リンクの軸承部に単なる切欠を開成するのではなく、上記軸承部の先端側に切欠窓孔を設けて連設部を適切に形成することにより、上記連設部にて軸承部を補強すると共に、軸ピンのガイド役をも果させ、これにより自動組立の作業性を向上し、かつ不良品の発生を抑止すると共に、給油の貯溜量を増大して、長期にわたる円滑な作動を保証しようとするものである。(本件考案の出願公告公報の第3欄14行から21行参照)」という、本件考案の目的に相当するものが示されていないから、本件考案は、甲第4号証ないし第7号証の記載を総合したところで、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとすることはできない。
したがって、本件実用新案登録は、請求人の主張する理由ならびに提出した証拠方法によっては、無効とすることができない。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点(1)、(2)は認める。同(3)<1>のうち、甲第5号証ないし第7号証には連接部分を設ける意義については特段の記載がないとの部分は否認し、その余は認める。同(3)<2>は争う。
審決は、本件考案の進歩性の判断を誤り(取消事由1)、かつ、違法な審判手続に基づいてなされたものである(取消事由2)。
(1) 取消事由1(進歩性の判断の誤り)
<1> 本件考案は、公知技術である拡角度開扉のための受容可能な切欠がすでに存在する従来ヒンジの軸承部先端〔本件実用新案公報(甲第3号証)の第3図〕に、(a)軸承部の強度低下、(b)軸承部の巻回形成時の偏芯性の問題点の解決を目的として、単に連設部を設けたものにすぎず、純粋に「軸承部構造に関する」ものである(同号証1頁1欄21行、22行)。
そうすると、本件考案が解決しようとする問題、すなわちリンクの軸承部構造に関する上記(a)軸承部の強度低下、(b)軸承部の巻回形成時の偏芯性の問題は、スライドヒンジ特有の問題ではなく、一軸蝶番を含めた軸承部構造を有するヒンジ一般に共通の問題であることは明白である。
上記したところに立脚して考察すると、本件考案は、甲第5号証ないし第7号証に開示された公知の技術であり、本件考案の作用効果も上記甲各号証記載の考案からは予期し得ないものとはいえず、本件考案は当業者であればきわめて容易に考案できたものである。
審決は、本件考案の本質を見誤り、本件考案の本質からすれば、連設部を設ける前提となる切欠(欠口)が存在しさえすればよく、切欠(欠口)の目的・作用効果は全く関係ないのに、殊更に甲第5号証ないし第7号証の切欠(欠口)の目的・作用効果に言及して、本件考案における切欠の目的・作用効果との違いを詮議し、その反面、甲第5号証ないし第7号証にその存在を認めた連設部を単なる「切欠残部」として片付け、「切欠残部」(連設部)が有する「軸承部構造」に関する一般的な存在意義、すなわち「切欠残部」(連設部)が存在すれば、(a)軸承部の強度補強、(b)軸承部の巻回形成時の偏芯性の防止の作用効果を奏するというあまりにも当たり前すぎる技術的常識を看過したものである。
したがって、本件考案は、甲第4号証ないし第7号証の記載を総合したところで、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとすることはできない、とした審決の判断は誤りである。以下詳述する。
<2> 甲第4号証記載のヒンジは、本件考案の連設部がないだけで、他の基本構成については全く同一である。
したがって、本件考案は、甲第4号証のヒンジの持つ課題を是正するための考案であることは明らかである。
<3> 本件考案と甲第5号証ないし第7号証の各考案の技術的内容は以下の点で共通しており、甲第5号証ないし第7号証の各連設部(連接部分)は本件考案の連設部と同一の技術的意義を有している。
したがって、甲第5号証ないし第7号証には、連接部分を設ける意義について特段の記載がないとした審決の認定は誤りである。
(a) 本件実用新案公報(甲第3号証)には、「ソケットdの前縁部に軸ピンg、g’をもって枢着される拡幅リンク1のソケットdと枢着される端部には、帯状金属板を巻装して軸承部2を形成した」(3欄24行ないし27行)と記載され、また、同公報の第5図には、拡幅リンク1の軸承部に、第1図、第2図に示すソケットdの軸挿通孔(図示されていない)を介して軸ピン4を挿通しようとする状態が示されている。
また、本件実用新案公報には、「更にプレス加工にて切欠窓孔6を打ち抜いた後、巻成する際も、左右の両軸承部形成板部2a、2aは連設部片7aにより連続しているので、両カール部2’、2’が同軸芯となるよう容易に巻成することができ」(4欄34行ないし38行)と拡幅リンクの連設部を有する軸承部の形成方法について記載されている。
(b) 甲第5号証には、「翼板Aの内側縁1の中央に突設し、その一部に欠口2”を設けた雌筒2と翼板Bの内側縁3の両側に突設した雌筒4、4とを喰合せ、両雌筒2および4、4の筒孔2’および4’、4’に軸5を挿通し軸装し、」(1頁右欄19行ないし23行)と記載され、同号証の第6図には、雌筒2、4が同一軸芯上で枢着されている状態の断面図が開示されている。
軸ピンを挿通して雌筒2、4を噛み合わせて枢着する甲第5号証の上記方法は、1本の軸ピンを挿通して二つの部品を枢着する方法である点において、ソケットdの両軸孔の間に拡幅リンクの軸承部を噛み合わせて枢着する本件考案の方法と何ら変わりはない。
また、甲第5号証には、「翼板Aの内側縁1の中央に突設し、その一部に欠口2”を設けた雌筒2」と連設部を有する雌筒の形成方法が示されており、同号証の第2図や第7図(A)「ないし(D)には欠口2”が雌筒2の中央部にあり、連設部が残っているのであるから、本件考案と甲第5号証のものとの間にはプレス加工上の差異はない。そして、甲第5号証のものにも「連設部(連接部分)」が存在する以上、同じプレス加工において雌筒2を巻成する際に連設部によって両筒孔2’、2’が同軸芯となるように巻成することができることは明らかである。
更に、甲第5号証には、「弾板7の屈曲先端縁8が翼板Aの雌筒2の欠口2”内に没入すると一定強さ以下の回動力で逆回動されないで、その係止位置が確保される。」(1頁右欄8行ないし11行)と効果について記載され、第7図(B)においては、屈曲先端縁8が欠口2”内に没入して連設部に当たって係止されていることは明白であり、それ故に連設部によって甲第5号証の蝶番はドアの係止位置が確保できるのである。
上記のように、軸ピンで2枚の翼板A、Bをそのそれぞれに設けた雌筒2、4を噛み合わせて軸5を挿通して枢着する甲第5号証の蝶番も、ソケットdの両側の軸孔の間に拡幅リンクの軸承部を噛み合わせて軸ピンで枢着する本件考案も、1本の軸ピンを挿通して二つの部品を枢着するものであり、また、連設部を残して軸承部を形成するプレス加工の方法に差異はないのであるから、連設部により軸承部を補強し、軸ピン挿入時のガイド役を果たし、かつ、軸承部の巻回形成時の偏芯を防止し、軸芯の直進性を確保することにより不良品の発生を防ぐことなどの効果は甲第5号証の蝶番も有していることは明らかである。
したがって、甲第5号証には、連接部分を設ける意義について特段の記載がないとする審決の認定は誤りである。
(c) 甲第6号証には、「1、2は板金から打抜いた蝶番部片、3、4はそれぞれ軸5を挿通する管状部形成用耳であって、この耳3の中央6を切欠いて除去6しあり、耳4の中間で前記耳3の中央の切欠6に対応したところに小突起7を設け、耳片3、4をそれぞれ巻回して管3、4を形成し、これら両部片1、2を上記管3、4に軸5を挿通し」(1頁左欄9行ないし15行)と記載されている。
軸ピンを挿通して2枚の蝶番部片1、2を噛み合わせて枢着する甲第6号証の上記方法は、1本の軸ピンを挿通して二つの部品を枢着する方法である点において、ソケットdの両軸孔の間に拡幅リンクの軸承部を噛み合わせて枢着する本件考案の方法と何ら変わりはない。
また、甲第6号証には、「あるいはあらかじめ部片に弧面を形成してから軸を通してもよい。」(1頁左欄16行、17行)、「中間の管の部分に無理ができて歪が生ずるもので外観を著しく損じまた弱体化するものであるが、この考案では蝶番の一方の部片1の耳3の中央を切欠いて取除いてあるのでそこに軸5の弯曲の逃げ場ができて蝶番に歪を生じ外観を損ずることなく回動が円滑である。」(1頁右欄5行ないし10行)と記載されており、これらの作用は、切欠6を形成したことによってもたらされるものであるが、実際に管3、4内に軸5を挿通した際には、軸5の外周面が連接部の内面に摺接することは甲第6号証の第1図ないし第3図からも明らかである。
したがって、連設部が軸5の挿通時のガイド機能を発揮することは自明であり、連設部が管3の左右両軸承部の先端側を連結している以上、管3、4を円弧状に折曲した際に連設部が管3の歪みや弱体化を防止し得ることは明らかである。
更に、甲第6号証には、上記のとおり「1、2は板金から打抜いた蝶番部片、3、4はそれぞれ軸5を挿通する管状部形成用耳であって、この耳3の中央6を切欠いて除去6しあり、・・・耳片3、4をそれぞれ巻回して管3、4を形成し」と連設部を有する軸承部の形成方法が記載されており、第4図には蝶番部片3の中央を矩形に除去した切欠6が、本件実用新案公報の第7図に示された平面図と同様に示されているから、甲第6号証のプレス加工の方法が本件考案のものと何ら差異がないことは明らかである。
以上のことから、甲第6号証のものは管3の連設部を有することにより、プレス成形による巻成加工時における両軸承部の同芯性が得られ、軸5を挿通して管4と枢着する場合のガイド性が確保され、部片1の耳3を中央に切欠いたことにより連設部が残るため、切欠6かう軸5が偏芯離脱せずに挿通でき、長期にわたる蝶番の回動が円滑に行える効果を有していることは自明である。
したがって、甲第6号証には、連接部分を設ける意義について特段の記載がないとする審決の認定は誤りである。
(d) 甲第7号証には、「翼板1に近い欠口壁をアール7aに形成する欠口7を設けた雌筒と翼板2の内側の両側に突設した雌筒とを喰合せ、両筒に軸を挿通し」(1欄21行ないし23行)と記載されている。
したがって、雌筒を喰合せ、軸を挿通して二つの翼板を枢着する方法は、軸で枢着する技術の点で、ソケットdの両軸孔の間に拡幅リンクの軸承部を噛み合わせて拡幅リンクとソケットdとを1本の軸で枢着する本件考案の方法と何ら変わりはない。
また、甲第7号証には、「その先を突部に形成して翼板1に近い欠口壁をアール7aに形成する欠口7を設けた雌筒」(1欄20行ないし22行)とアール7aに連設部を有する雌筒(軸承部)の形成方法が記載されており、同号証の第1図、第4図及び第5図によっても、甲第7号証のものが、欠口を軸承部の中央に切り欠くことにより、連接部分を残して軸承部を形成するというプレス加工上の方法において本件考案と差異がないことは明白である。
更に、甲第7号証の翼板1、2の雌筒が同一軸芯上にあることは、同号証の第3図からも明らかであり、連設部が共通する雌筒内に軸3を挿通するときの軸のガイド役を果たし、軸の直進性を確保できるのは自明である。
上記のとおり、甲第7号証の蝶番と本件考案のヒンジには、連設部を有する軸承部(雌筒)を形成するプレス加工の方法に差異はないから、連設部により軸承部を補強し、軸ピン挿通時のガイド性による直進性を確保するなどの効果は甲第7号証の蝶番も有していることは自明である。
したがって、甲第7号証には、連接部分を設ける意義について特段の記載がないとする審決の認定は誤りである。
<4> 以上のとおり、甲第5号証ないし第7号証のものは、本件考案と同様の形態をした金属板の部片を同様のプレス加工により巻成して軸承部を形成し、軸芯を中心として回動する機能を持つ蝶番である点で本件考案と同一であり、蝶番の形態に関係なく欠口に連設部を有することにより、軸承部の補強が可能となり、かつ軸承部の巻回形成時の偏芯を防止でき、軸のガイド性が得られ、組立加工も容易になるなどの本件考案と同一の作用効果が得られることも自明であるから、甲第4号証の広角度回動機構に甲第5号証ないし第7号証に開示された連設部(連接部分)を転用することにより、本件考案と同一の構成を得ることは、当業者であればきわめて容易に想到し得るところであり、本件考案の効果も甲第4号証ないし第7号証の考案を単に組み合わせることにより当然得られるものである。
(2) 取消事由2(審判手続の違法)
<1> 実用新案法41条(平成5年法律第26号による改正前のもの)で準用する特許法134条2項(同上)によれば、審判長は、被請求人からの答弁書を受理したときは、単に形式的にその副本を請求人に送達すればよいというものではなく、答弁書に対し、請求人が弁駁するか否かにかかわらず、まず答弁書副本を審理終結前に請求人に送達することを要する。もしそうでなければ、答弁書の内容が審決の結論に重大な影響を及ぼすなど特段の事情がある場合には、審理を尽くしたものとはいえず、請求人の利益が著しく損なわれる結果を招き、許されるものではない。
<2> 本件審判手続において、被告は、平成6年1月31日付け審判事件答弁書(甲第10号証)を提出し、同年2月1日特許庁に受理された。その後、特許庁より原告に対し、同年3月4日付け審理終結通知書が送達され(送達日 同月15日)、同年5月16日に審決書謄本及び審判事件答弁書副本が送達された。
そのため、請求人たる原告としては、本件審判事件の係属中に被告の主張を知ることができずに審判手続が終了してしまい、答弁書に対する検討、反論の余地なども全くなかった。しかも、審決理由を検討すると、答弁書の内容が審決の結論を導き出すにあたって重要な役割を果たしていることは明らかで、審決の結論に重大な影響を与えていることは否定できない。
したがって、審判長が原告に対し、審決書謄本と同時に答弁書副本を送達したことは、実用新案法41条で準用する特許法134条2項の規定に違反するものであり、上記手続上の暇疵がある審決は違法である。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断に誤りはなく、また、本件審判手続に原告主張の違法はない。
2 反論
(1) 取消事由1について
<1> 本件考案は、甲第4号証を含む公知のスライドヒンジ特有の問題点の解決を目的として考案されたものであり、したがって、本件考案にかかる連設部がスライドヒンジを構成する他の要素と有機的不可分の関係にあることは明らかであって、本件考案が解決しようとする問題がスライドヒンジ特有の問題ではなく、一軸蝶番を含めた軸承部構造を有するヒンジー般に共通の問題である旨の原告の主張は失当である。
<2>(a) 甲第5号証の考案における連接部分は、原告の主張するように本件考案と同一の技術的意義を有するものではなく、一定角度において係止位置を確保することを目的として考案された欠口2”を形成するために存在するものである。つまり、この連接部分は、一定角度における欠口2”を形成し、かつ、同欠口内にはまり込んだ屈曲先端縁8がそれ以上回転しないためのストッパーの役割をしているのである。
(b) 甲第7号証の考案における連接部分は、甲第5号証と同様、蝶番の任意の角度に弾節停止させるために欠口7を設けた結果形成された部分であり、また、連接部分は、欠口側の壁に丸み(アール7a)を持たせることによって先端縁8の更なる回動を滑らかにするという技術的意義を有しているのであって、原告の主張するような本件考案と同一の技術的意義を有するものではない。
(c) 甲第6号証の考案における連接部分は、軸の湾曲を助けるための切欠を形成するにあたって、必要のない部分を単に残したことによって形成されたものであり、連接部分に本件考案と同一の技術的意義が認められるという原告の主張は誤りである。
<3> 甲第5号証ないし第7号証に記載されている一軸蝶番の連接部分は、それぞれ上記のとおりの技術的意義を有しているのであって、本件考案の連設部が有する目的・作用効果を示唆するところはない。
したがって、審決の判断に誤りはない。
(2) 取消事由2について
特許法134条1項と同条2項が審判請求書副本の送達と答弁書副本の送達について区別して規定しているのは、審判手続における上記2つの書面の位置づけが全く異なるところにあるのはいうまでもない。審判長は、審判手続中ならば、その時期を問わず、また弁駁のための期間を与えることを顧慮することなく、答弁書副本を請求人に送達すれば足りるのである。
したがって、本件審判手続において、答弁書副本の送達が審決書と共になされたことに違法はない。
第4 証拠
証拠関係は書証目録記載のとおりであって、理由中に掲記の書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本件考案の要旨)及び3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
2 本件考案の概要
甲第3号証(本件考案の実用新案公報)には、「本考案は第1図、第2図に例示した如く、扉取付枠aに固定するマウンティングプレートbと、扉cの凹所c’に嵌着した後、ビス止め等にて扉cを固定するカップ形状のソケットdをリンクe、fにて連結してなるヒンジ、更に詳しくはそのリンクの軸承部構造に関する。上述ヒンジは、マウンテイングプレートbの前端部と、ソケットdの前縁部に第1図ないし第4図に示したような拡幅リンクeと、狭幅リンクf(このリンクは少なくともソケットと枢着する側が狭幅であればよい)を前後方向へ変位させて軸ピンg、g’、h、h’にて枢着し、第1図に示した如くマウンテイングプレートbの前端部及び両リンクe、fがソケットdに内装された状態で閉扉され、又第2図に示した如く2本のリンクe、fがソケットdの前縁及び扉cの端部を跨いだ形で開扉され、通常のヒンジに比べて開扉角度を大きくできるよう形成されているが、更に拡角度に開扉できるようにする為、既にソケットdとの枢着部にあって、拡幅リンクeにおける中央部、すなわち軸承部i、iの間に、狭幅リンクfの一部を受容可能なるよう切欠溝jを設け、閉扉時にあって、上記切欠溝jに狭幅リンクfの一部が第1図に示した如く軸ピンg’に当接するまで受容されるように形成してある。しかしながら上述構成によると、軸承部i、iは切欠溝jによって第3図、第4図に示した如く左右に分断されてしまい、軸承部i、iの強度が低下する問題点があるだけでなく、近時ヒンジの製作に際し、その生産性を向上すべく自動機械による組立が実施されており、当該軸ピンg’もソケットdの軸孔(図示せず)と上記軸承部i、iとに機械を用いて圧入するようにしているが、この際、両軸承部i、i間に上記切欠溝jが存在するので軸ピンg’は当該圧入時に偏芯し易く、その先端が他方の軸承部iに嵌入せず噛み合うなどして、当該軸承部iを損じ、この結果不良品の発生率が大となり、また手作業の場合にも軸ピンg’の嵌合に手間どるといった問題点があった。又、このような不良率の問題は、金属板をプレス加工して2個の軸承部用形成片と、その間に切欠溝jを形成した後、両軸承部用形成片を第3図に示した如く夫々巻成し、又は第4図に示した如く屈曲させて両軸承部i、iを形成するものであるから、形成時に両軸承部i、iが偏芯し易いことにも起因しているのである。そこで本考案は上述従来の問題点に鑑みて検討の結果、拡幅リンクの軸承部に単なる切欠を開成するのではなく、上記軸承部の先端側に切欠窓孔を設けて連設部を適切に形成することにより、上記連設部にて軸承部を補強すると共に、軸ピンのガイド役をも果させ、これにより自動組立の作業性を向上し、かつ不良品の発生を抑止すると共に、給油の貯溜量を増大して、長期にわたる円滑な作動を保証しようとするものである。」(1欄17行ないし3欄21行)、「本考案に係るヒンジによれば、・・・上記連設部7によって軸承部2を補強することができると共に、同部7が軸ピン4のガイドとなるので、ソケットdと拡幅リンク1との自動組立による枢着時にあって、軸ピン4が切欠窓孔6から偏芯離脱することなく、このため不良品の発生がない組立作業を行なうことができ、生産性を向上することができる。又、連設部7は軸ピン4の一部軸承部となって両カール部2’、2’に連続するから潤滑油の貯溜性も良くなり、更にプレス加工にて切欠窓孔6を打ち抜いた後、巻成する際も、左右の両軸承部形成板部2a、2aは連設部片7aにより連続しているので、両カール部2’、2’が同軸芯となるよう容易に巻成することができ、この点からもソケットとの枢着を円滑にして精度良く行なうことができる。」(4欄13行ないし40行)と記載されていることが認められる。
3 原告主張の取消事由に対する判断
(1) 取消事由1について
<1> 原告は、その主張の前提として、本件考案が解決しようとする問題、すなわち、リンクの軸承部構造に関する(a)軸承部の強度低下、(b)承部の巻回形成時の偏芯性の問題は、スライドヒンジ特有の問題ではなく、一軸蝶番を含めた軸承部構造を有するヒンジー般に共通の問題であるとしたうえ、本件考案の本質からすれば、連設部を設ける前提となる切欠(欠口)が存在すればよく、切欠(欠口)の目的・作用効果は全く関係ないのに、審決は、殊更に甲第5号証ないし第7号証の切欠(欠口)の目的・作用効果に言及して、本件考案における切欠の目的・作用効果との違いを詮議している旨非難する。
しかし、本件考案の要旨及び上記2に認定の事実によれば、本件考案は、公知のスライドヒンジを前提とし、そのスライドヒンジに特有の上記認定の問題点の解決を目的として考案されたものであることは明らかである。
また、本件考案の進歩性を判断するにあたって問題となる「拡幅リンクの幅方向中央部に切欠窓孔を設けて、上記両側カール部の先端側を連設してなる連設部」という構成を採用することの推考容易性について考える場合に、本件考案におけるこの構成の目的・作用効果を念頭において、甲第5号証ないし第7号証に開示されている切欠や連接部分がどのような目的・作用効果を有しているものであるかについて審究すべきであることは当然である。
したがって、原告の上記非難は当を得たものとはいえない。
<2> 甲第4号証に審決摘示の事項が記載されていること、及び同号証記載のものには本件考案でいう「連設部」が存在しないことについては、当事者間に争いがない。
原告は、甲第5号証ないし第7号証の各連設部(連接部分)は本件考案の連設部と同一の技術的意義を有しているとして、同各号証には、連接部分を設ける意義について特段の記載がないとした審決の認定は誤りである旨主張するので、以下この点について項を改めて検討する。
<3>(a) 甲第5号証には、「翼板Aの内側縁1の中央に突設し、その一部に欠口2”を設けた雌筒2と翼板Bの内側縁3の両側に突設した雌筒4、4とを喰合せ、両雌筒2および4、4の筒孔2’および4’、4’に軸5を挿通し軸装し、翼板Bの雌筒4、4間にその翼板Bの外側縁6から内向きに突設した弾板7の屈曲先端縁8を上記翼板Aの雌筒2の外面9または欠口2”に弾発的に係止させるようにして成る弾節蝶番。」が記載されていること、欠口2”を設けた雌筒2は欠口2”の縁から雌筒2の巻締め先端部にかけて連接部分を有することはその第2図や第7図(A)~(D)によって明らかであるが、その欠口2”及び上記連設部分は、2枚の翼板A、Bをそのそれぞれに設けた雌筒2、4に軸5を挿通して枢着するタイプの蝶番の一方の翼板Aに設けた雌筒2に設けたものであって、欠口2”は、他方の翼板Bの外側縁6から内向きに突設した弾板7の屈曲先端縁8を係止するためのものであることについては、当事者間に争いがない。
そして、甲第5号証には、上記連接部分自体については、これを設けた技術的意義について特に記載されてはいないものと認められる。
(b) 原告は、軸ピンで2枚の翼板A、Bをそのそれぞれに設けた雌筒2、4を噛み合わせて軸5を挿通して枢着する甲第5号証の蝶番も、ソケットdの両側の軸孔の間に拡幅リンクの軸承部を噛み合わせて軸ピンで枢着する本件考案も、1本の軸ピンを挿通して二つの部品を枢着するものであり、また、本件考案も甲第5号証のものも、連設部を残して軸承部を形成するプレス加工の方法に差異はないことを理由として、連設部により軸承部を補強し、軸ピン挿入時のガイド役を果たし、かつ、軸承部の巻回形成時の偏芯を防止し、軸芯の直進性を確保することにより不良品の発生を防ぐことなどの効果は甲第5号証の蝶番も有していることは明らかであって、同号証には、連接部分を設ける意義について特段の記載がないとした審決の認定は誤りである旨主張する。
しかし、甲第4号証の考案に甲第5号証の上記連接部分を適用することにより本件考案をきわめて容易に想到し得たものといえるためには、甲第5号証に、上記連接部分が本件考案の上記目的、すなわち、「連設部にて軸承部を補強すると共に、軸ピンのガイド役をも果させ、これにより自動組立の作業性を向上し、かつ不良品の発生を抑止すると共に、給油の貯溜量を増大して、長期にわたる円滑な作動を保証しようとする」という目的と同様の目的なり、それに対応する作用効果を有することの開示ないし示唆が存することが必要であるところ、甲第5号証には、この点についての記載ないし示唆はなく、上記のとおり、欠口2”について、他方の翼板Bの外側縁6から内向きに突設した弾板7の屈曲先端縁8を係止するためのものであることが記載されているにすぎず、上記連接部分は、欠口2”を形成したことによって結果的に形成されたもので、それ自体に技術的意義を持たせるものとして形成されたものではないものと認めざるを得ない。
したがって、甲第5号証には、連接部分を設ける意義については特段の記載がないとした審決の認定に誤りはなく、原告の上記主張は採用できない。
<4>(a) 甲第6号証には、「1組の蝶番部片1、2は管3、4を具備し、その管3は切欠6を有し他方の管4、4間に小突起7を上記管3の切欠6に対応して突設しこれら両部片1、2を前記管3、4に軸5を挿通し全体を弧面としてある円弧面に取付ける蝶番の構造。」が記載されていること、同号証の第4図からみて、管(耳)3の切欠6の下方(すなわち切欠6の縁から管(耳)3の巻締め先端部にかけて)には連接部分があることは明らかであるが、切欠6及び上記連接部分は、2枚の蝶番部片1、2とそのそれぞれに設けた管3、4に軸5を挿通して枢着するタイプの蝶番の一方の蝶番部片1の耳(管)3に設けたものであり、その切欠6は、軸5の湾曲の逃げ場となるものであり、かつ蝶番の他方の部片2の小突起7を切欠6の基部に当てて蝶番の開き具合を規制する(同号証1頁右欄7行ないし13行を参照。)ためのものであることについては、当事者間に争いがない。
そして、甲第6号証には、上記連接部分自体については、これを設けた技術的意義について特に記載されてはいないものと認められる。
(b) 原告は、甲第6号証のものは管3の連設部を有することにより、プレス成形による巻成加工時における両軸承部の同芯性が得られ、軸5を挿通して管4と枢着する場合のガイド性が確保され、部片1の耳3を中央に切欠いたことにより連設部が残るため、切欠6から軸5が偏芯離脱せずに挿通でき、長期にわたる蝶番の回動が円滑に行える効果を有していることは自明であるから、甲第6号証には、連接部分を設ける意義について特段の記載がないとした審決の認定は誤りである旨主張する。
しかし、甲第4号証の考案に甲第6号証の上記連接部分を適用することにより本件考案をきわめて容易に想到し得たものといえるためには、甲第6号証に、上記連接部分が本件考案の上記目的と同様の目的なり、それに対応する作用効果を有することの開示ないし示唆が存することが必要であるところ、甲第6号証には、この点についての記載ないし示唆はなく、上記のとおり、切欠6について、軸5の湾曲の逃げ場となるものであり、かつ蝶番の他方の部片2の小突起7を切欠6の基部に当てて蝶番の開き具合を規制するためのものであることが記載されているにすぎず、上記連接部分は、切欠6を形成したことによって結果的に形成されたもので、それ自体に技術的意義を持たせるものとして形成されたものではないものと認めざるを得ない。
したがって、甲第6号証には、連接部分を設ける意義については特段の記載がないとした審決の認定に誤りはなく、原告の上記主張は採用できない。
<5>(a) 甲第7号証には、「翼板1の内側に孔1’、1’を設けその先を突部に形成して、翼板1に近い欠口壁をアール7aに形成する欠口7を設けた雌筒と翼板2の内側の両側に突設した雌筒とを喰合せ、両筒に軸を挿通し、前記欠口7の雌筒上に突出する弾板6を翼板2と一体的に設け、かつ前記弾板6の上面を薄肉部6a、6bに形成して先端縁8を前記筒上に弾発的に係止させ翼板の内側から外側に向ってストッパー板4を設けてなる弾節蝶番。」が記載されていること、欠口7を設けた雌筒は欠口7の縁から雌筒の巻締め先端部にかけて連接部分を有することはその第4図や第5図によって明らかであるが、欠口7及び上記連接部分は、2板の翼板1、2をそのそれぞれに設けた雌筒に軸3を挿通して枢着するタイプの蝶番の一方の翼板1に設けた雌筒に設けたものであって、欠口7は、翼板2の弾板6の先端縁8と嵌合し、翼板を固定するためのものであることについては、当事者間に争いがない。
そして、甲第7号証には、上記連接部分自体については、これを設けた技術的意義について特に記載されてはいないものと認められる。
(b) 原告は、甲第7号証の蝶番と本件考案のヒンジには、連設部を有する軸承部(雌筒)を形成するプレス加工の方法に差異はないから、連設部により軸承部を補強し、軸ピン挿通時のガイド性による直進性を確保するなどの効果は甲第7号証の蝶番も有していることは自明であるとして、甲第7号証には、連接部分を設ける意義について特段の記載がないとした審決の認定は誤りである旨主張する。
しかし、甲第4号証の考案に甲第7号証の上記連接部分を適用することにより本件考案をきわめて容易に想到し得たものといえるためには、甲第7号証に、上記連接部分が本件考案の上記目的と同様の目的なり、それに対応する作用効果を有することの開示ないし示唆が存することが必要であるところ、甲第7号証には、この点についての記載ないし示唆はなく、上記のとおり、欠口7について、翼板2の弾板6の先端縁8と嵌合し、翼板を固定するためのものであることが記載されているにすぎず、上記連接部分は、欠口7を形成したことによって結果的に形成されたもので、それ自体に技術的意義を持たせるものとして形成されたものではないものと認めざるを得ない。
したがって、甲第7号証には、連接部分を設ける意義については特段の記載がないとした審決の認定に誤りはなく、原告の上記主張は採用できない。
<6> 以上のとおりであるから、甲第5号証ないし第7号証には、本件考案の目的に相当するものが示されていないから、本件考案は、甲第4号証ないし第7号証の記載を総合したところで、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとすることはできない、とした審決の判断は正当であり、甲第4号証の広角度回動機構に甲第5号証ないし第7号証に開示された連接部分(連設部)を転用することにより、本件考案と同一の構成を得ることは、当業者であればきわめて容易に想到し得たところである旨の原告の主張は採用できず、取消事由1は理由がない。
(2) 取消事由2について
<1> 甲第10号証、第11号証及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件審判事件において、平成6年1月31日付け審判事件答弁書を提出し、同年2月1日特許庁に受理されたこと、その後、特許庁より原告に対し、同年3月4日付け審理終結通知書が送達され(送達日 同月15日)、同年5月16日に審決書謄本及び上記審判事件答弁書副本が送達されたことが認められる。
<2> ところで、実用新案法41条が準用する特許法134条2項には、「審判長は、前項の答弁書を受理したときは、その副本を請求人に送達しなければならない。」と規定されているから、被請求人から答弁書が提出されたときは、審判長は、その副本を審理終結の通知前に請求人に送達しなければならないものと解されるところ、上記のとおり、本件審判事件において、原告に対する答弁書副本の送達は、審決書謄本の送達と同時に行われ、審理終結の通知前には行われなかったものであるから、実用新案法41条、特許法134条2項に違反するものというべきである。
しかしながら、特許法134条1項が「審判長は、審判の請求があったときは、請求書の副本を被請求人に送達し、相当の期間を指定して、答弁書を提出する機会をあたえなければならない。」と規定していることと対比して考えると、同法134条2項は、必ず請求人に再反論、再立証の機会を与えることを保障する趣旨までを含むものと解することはできず、被請求人から提出された答弁書の反論内容からいって、答弁書副本を請求人に送達することなく、その再反論をさせずに審理を終結したことが、審決の結論に実質的に影響を及ぼさないものと認められるような場合には、審理終結通知後に答弁書副本を送達したことの暇疵は審決の取消事由とはならないものと解するのが相当である。
本件において、甲第1号証、甲第8号証ないし第10号証によれば、本件審判手続において、被請求人である被告から提出された審判事件答弁書の内容は、請求人である原告の主張及び立証に対する反論であって、改めて原告の再反論を必要とする内容のものとは認められず、また、審決も原告の主張に基づき、その範囲において判断されていることが認められるから、審理終結通知前に上記答弁書副本を原告に送達しなかったことが審決の結論に実質的に影響を及ぼしたものとは認め難く、したがって、答弁書副本の送達に関する上記違法は審決の取消事由とはならないものというべきである。
したがって、取消事由2は理由がない。
4 よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
別紙図面1
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別紙図面2
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別紙図面3
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別紙図面4
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別紙図面5
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